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2005年12月17日

●最後のイラストリアス級 -ヴィクトリアス- (番外編:ヴィクトリアスの改装費に見るイギリス経済 (?))

ヴィクトリアスの改装費は1947年時点の見積もりで500万ポンドとされていましたが、実際に着工した時点 (1950年8月) では540万ポンドに。
そして僅か2ヶ月後の10月には770万ポンドに跳ね上がり、1952年3月には1100万ポンド、1953年12月には1416万ポンドに達しています。
最終的な工費は3000万ポンドに達し、実に当初見積もりの6倍 (つまり計画全体の見積もり額) も掛かっています。

これは各種装備の追加・更新による増加もありますが、スタグフレーション (インフレ+景気後退) による国内経済の急速な悪化によるものです。
この後一時的にはイギリス経済の安定は見られるものの、1970年代末まで衰退の一途をたどることとなり、同時にそれはイギリス海軍の衰退を意味していました。

2005年12月14日

●最後のイラストリアス級 -ヴィクトリアス- (後編:イギリス艦隊型空母の終焉)

さて、イギリスは第二次大戦終結直後に最大の植民地を失い、大きく疲弊した国内経済にとって深刻なダメージとなります。
そのしわ寄せは当然軍事部門にも押し寄せ、特に建造中であった空母群や就役中の艦艇の改装工事は極めて困難な状況となっていました。

これはイラストリアスシリーズの近代化改装が計画された理由であり、またそれが挫折した最大の要因でもあります。
イラストリアスシリーズの改装計画は第一艦のヴィクトリアスのみで取り止めとなり、残る5隻分は本来補助的な役割を担うはずであったセントー級の3隻と改セントー級であるハーミーズの4隻で代替されることとなります。
1950年代末期に就役していた艦隊型空母はイーグル、アーク・ロイヤル、ヴィクトリアス、セントー、アルビオン、ブルワーク、ハーミーズの7隻です。
しかし1960年代初頭にはセントー級の3隻は能力不足とサイズ上の制限で新型機の運用が困難となったためコマンド空母に転籍しています。

残る4隻の空母も、サイズ的には米新鋭超大型空母群はおろか第二次大戦艦であるエセックス級よりも小型なため改装による運用能力向上にも無理があり、差し当たってイーグルとアーク・ロイヤルの代艦として2隻の艦隊型空母の建造が企図されます。

これが後の"CVA-01"級ですが、時の政権の空母全廃政策のあおりを喰らって廃案となり、まず最古参であったヴィクトリアスが1960年代末に退役。
次いでイーグルが1970年代初頭に退役していますが、アーク・ロイヤルのみは1960年代中期に最新鋭のF-4K戦闘機運用能力付与のための改装工事を受けて暫く艦隊にとどまった後、70年代末に退役しています。
ハーミーズはイーグルと同時期の退役が見込まれていましたが、コマンド空母兼対潜空母となっていたブルワークの代替のためにヘリ空母に改装されています。
当時の政権が過激とも言える空母全廃政策を取った背景には当時イギリス最初の原子力潜水艦ドレッドノートが就役したことにより戦略ミサイル原潜建造の目処が付いたことも理由の一つでしょう。事実、現在のイギリス海軍は戦略ミサイル原潜を中心とした編成といっても間違いではないでしょう。
当然空母運用の財政的負担に耐えられなくなったことも原因です。

ハーミーズは1980年に、当時建造中であったインヴィンシブル級STOVL空母に先駆ける形でスキージャンプを設置してハリアー戦闘攻撃機の運用試験を実施しています。
そして1982年に勃発したフォークランド紛争においてイギリス派遣艦隊旗艦として活躍し、1985年に退役。翌年インドに売却されてヴィラートと改名され、現在はインド唯一の空母として、旧ロシア空母で2008年改装完了予定の新空母ヴィクラマーディティア引渡まで在籍する予定です。

2005年12月10日

●最後のイラストリアス級 -ヴィクトリアス- (中編:イラストリアスシリーズの大改装計画とその挫折)

さて、何故新造せずにイラストリアス級の改装で済ませようとしたのか、というと二度の戦争により大きく疲弊したイギリスの経済事情に依るところが大きい、と言っていいでしょう。
もちろん、イラストリアス級は大改装を実施すれば当面第一線に参加できると考えられていたことも影響していますが、イラストリアス級の改装費用は250万ポンドと見込まれていた一方で、同規模の空母を新造するとなると700万ポンドが必要と考えられていました。
当然、艦齢その他の面から見ると新造艦の方が最終的に有利になる場合もありますが、差し当たって数をそろえるという観点からは安上がりな方がよい、と判断されています。

これに基づき1946年夏から基本計画の策定が始まっていますが、マルタ級大型空母の時と同様に格納庫の方式を開放式に変更するか否かで揉めています。
この時には太平洋上での作戦行動においては大西洋上でのそれに比べて閉鎖式の優位点は低下する、と判断されて開放式の案が優勢でしたが、結局閉鎖式の利点が開放式のそれよりも上回ると考えられています

さて、1947年1月に入ると具体的に話が進展し、各艦の運用寿命を20年延命することが決定され、改装順序も決定されています。
第一艦はフォーミダブル、続いてヴィクトリアス、インドミタブル、イラストリアス、インプラカブル、そして最後にインディファティガブルとされました。

1948年2月に最終案が承認されていますが、この案を一言で言えば「ハーミーズ級の装甲空母版」でした。
基準排水量は27,180t (満載33,000t) 、備砲は4.5in連装両用砲8基から新型の3in連装両用砲6基に、格納庫から上の上部構造は完全に一新されるものの飛行甲板の3in装甲鈑はそのまま残されていますが、一方で格納庫部分の舷側装甲は撤去されています。
また全幅も艦の安定性と機関スペースの確保、加えて水中防御改善のために拡張されています。
ボイラーも旧来のアドミラルティ式からアメリカ製のフォスター・ホイラー式に換装されていますが、タービンは変更されていないため最大速力に変化はありません。

最初に改装を受けることになったのはヴィクトリアスでしたが、これはフォーミダブルが戦中の損傷などの結果としてスクリューシャフトや飛行甲板の歪みの問題やその他様々な点でヴィクトリアスより状態が悪かった事が影響しています。

1950年10月からポーツマス海軍工廠で改装工事を受けたヴィクトリアスですが、改装期間中にも様々な改設計が行われています。
例えば当初アメリカ製のものだった3in連装両用砲を、自国製のものが開発完了したことによりそれに変更されています。
また、1952年2月の軽空母トライアンフによるアングルドデッキ試験の好成績を受けてヴィクトリアスも同年6月にアングルドデッキを装備するように変更され、更に1953年5月にはアングルドデッキの角度を8.5度に増大されています。
更に同年7月には当時最新鋭のType984対空レーダーを搭載することとなり、改装後のヴィクトリアスやイーグル、アーク・ロイヤル、そしてハーミーズの外観上の大きな特徴となっています。
1954年4月に工事を完了し生まれ変わったヴィクトリアスですが、時代の流れは既に構想当初の世界情勢から大きく変化していました。

2005年12月 8日

●最後のイラストリアス級 -ヴィクトリアス- (前編:戦中~戦後の英艦隊空母事情)

本艦はイラストリアス級の3番艦として建造され、就役早々にビスマルク追撃戦に駆り出されています。
また1942年には短期間ではありますがアメリカ太平洋艦隊に編入されてソロモン方面で作戦行動を行っています。
更に1945年には沖縄戦とそれに続く日本本土攻撃作戦にも参加し特攻機の突入により損傷を受けています。
このようにイギリス海軍を代表する歴戦の艦隊型空母であったヴィクトリアスですが、元々の設計は戦前であり、航空機の大型化が急速に進んだ戦後にあってはやや力不足の艦が拭えない状況となっていました。

戦前計画のイラストリアス級とインドミタブルの計画時における取り扱い可能な航空機重量は14,000ポンドであり、一方戦時計画艦であるインプラカブル級は航空機の発達に伴い20,000ポンドまで引き上げられていました。ちなみにイラストリアスは地中海で損傷後の修理時に20,000ポンド対応化がなされていました。
格納庫の高さではイラストリアス級で16フィート、インドミタブルは上部格納庫14フィート + 下部格納庫16フィート、インプラカブル級は14フィートでした。
この数値は、大型化が進んだ艦載機を運用するには厳しいもので、特に格納庫高さは戦時中から不足していました。 (インプラカブル級ではF4Uを格納できない等)

このため、純粋な航空機運用能力では戦時急造の軽空母であるコロッサス級と比べて劣っておいました。 (というよりむしろコロッサス級の良好な運用能力はイラストリアス級の戦訓により決定された)
なお、英海軍では戦争中期には航空機重量30,000ポンド対応、格納庫高さ17フィート6インチを達成することが必須と考えており、実際イラストリアス級の拡大改良型であるオーディシャス (のちイーグル、アーク・ロイヤル) やハーミーズ級 (のちセントー級、ハーミーズ) はこれに沿って設計が行われています。 (が、イーグル就役時の段階でこの程度の能力では新鋭機の取り扱いには困難が伴っていました)

終戦直後の1945年11月に英海軍は1950年に9隻の艦隊空母を確保する方針を打ち出しています。
このうちの3隻がオーディシャス級、後の6隻はイラストリアスシリーズです。
1950年以降に登場が予想される艦載機を運用することは現状では極めて困難であるため、この6隻に対しての改装が検討されることとなります。